なぜデザイン史の漫画を描くのか

「降霊で学ぶデザイン史① ウィリアム・モリス」「降霊で学ぶデザイン史② エミール・ガレ」

2年くらい前から近代デザイン史で著名な人物を題材としたマンガを描いています。コミティアや最近ではデザイン読書日和というイベントで頒布するほか、BOOTHで自家通販をやっています。

イベントではいろいろ質問をいただいたりすることもあるのですが、よくあるのが「なんでこういうものを描いているんですか?」というものです。

実は一巻目の「降霊で学ぶデザイン史 ① ウィリアム・モリス」 の後書きエッセイにも書いているのですが買わないと読めないので、Web記事にリライトしました。
※大まかな内容としては同じですが、文章のテイストは大きく異なります

降霊で学ぶデザイン史 ① ウィリアム・モリス - パルヒコさん - BOOTH
「降霊で学ぶデザイン史 ① ウィリアム・モリス」 A5フルカラー24P / マンガ + 後書きエッセイ 近代デザインの父と呼ばれたウィリアム・モリスの霊とお話しするマンガです。 ウィリアム・モリスの思想、テキスタイル作品「いちご泥棒」とインディゴ抜染、モリスのブックデザインなど。 初出:COMITIA134(2020/11/23)
降霊で学ぶデザイン史 ② エミール・ガレ - パルヒコさん - BOOTH
「降霊で学ぶデザイン史 ② エミール・ガレ」 A5フルカラー24P / マンガ + 後書きエッセイ フランスのアール・ヌーヴォーを代表するナンシー派のデザイナー、エミール・ガレを降霊する漫画です。 ランプ「ひとよ茸」、ガレのガラス技法、経営者としてのエミール・ガレなどの内容。 初出:COMITIA136(2021/6/6)

五十年後も作ることを続けるにはどうすればいいのか

僕は何かを作ることが好きで、2022年現在では主にWebサイトを作る仕事に携わっています。そして、できれば死ぬまで何かを作ることを続けたいと思っています。作るものが将来はWebサイトから変わっているかもしれませんが。今もマンガやイラストを描いたり、このように文章を書いたりしていますし。

とは言え今現在はWeb関連の仕事で生計を立てているので、目前の課題として今のこの仕事を続けるにはどうすればよいのかということがあります。そのための行動の一つとして、Web業界の流行や新しい技術をフォローしたり勉強をしたりすることがあります。

流行、新しいものを追い続けるラットレース

最近よく聞くのは「UX・UIデザイン」「デザイン思考」「DX」みたいなワードでしょうか。Web開発の技術に関する言葉だとJamstackでしょうか。少し前だと「マテリアルデザイン」「フラットデザイン」が話題となっていた記憶があります。

比較的まだ歴史が浅くツールや技術の更新が速いこともあって、Web・デジタルの業界は新奇な言葉が間断なく出てきては目まぐるしく入れ替わっていきます。例えばデザインツールひとつとってもこの十数年で大きく入れ替わりました。

大半がPhotoshopやFireworksを使っていましたが、MacOSXユーザーはSketchという選択肢が出てきました。そしてAdobeがその対抗としてXDをリリース広まっていきましたが、Figmaが出てきてデファクトスタンダードの座に近いツールとなりました。そしてAdobeがFigmaを買収……これがこの十年ほどの動きです。

この速度に振り落とされないようにしていると息切れしそうです。しかし、走り続けなければなりません。例えばFigmaを使えないと仕事の幅が狭くなってしまうでしょう。この業界で仕事を続けていくには好むと好まざるに関わらず、この終わりのないラットレースを続けるしかないのです。

新型コロナウィルス流行で少し立ち止まる時間ができた——さて何に時間を使おうか?

2020年、COVID-19のパンデミックが始まりました。いくつかの仕事がなくなり、緊急事態宣言もあり外出もほとんどしなくなりました。結果、まとまった時間ができたので、後学のためデザインの勉強をすることにしました。

さて、デザインと言っても幅が広いです。デザインの何を対象とするのか?
「UXデザイン」や「UIデザイン」の最新動向をキャッチアップしようか。「デザイン思考」や「デザイン経営」の事例を調べて学ぶのもよいかもしれない。

しかし、それであと5年は仕事の役にたったとして、その後はどうなのか。流れの速いこの業界の常で、せっかく学んだことが陳腐化あるいはコモディティ化してそれほど強みとはならないかもしれない。

死ぬまで何かを作り続けるには5年の賞味期限では短すぎるのです。

未来のために歴史を学ぶ

未来を予測するのは難しいです。未来に地続きである現在に軸足をおいて「最新」「流行」を追っていく姿勢は、未来に対応していく態度として間違ってはいないとは思います。一方でこの方法は近い未来しかフォローできないでしょう。現在から予測する軌道通りに進んでいくと限らないですし、先であればあるほどその軌道から大きくズレていきます。

この軌道が予測できない未来に対応する方法が「歴史を学ぶ」ことです。「デザイン」がどのように成り立って、これまでどういった軌跡を描いてきたのか。これを知ることによって、将来「デザイン」がどういった道を歩んでいくのかを予想できるかもしれません。あるいは予想もつかないことが起きたとき、過去に似たような事象がなかったのかを振り返り、対応方法のヒントが見つかるかもしれません。

「歴史」は「未来」の道しるべとなり得るのです。

歴史を自分で描く意義

デザインの歴史を学ぶことにしましたが、漫然とやっても続かないのでデザイン史を題材としたマンガを描くこともすぐに決めました。そして、これはただ続けるためだけが目的でもありませんでした。

「デザイン」とは何か、今は「デザイン」という言葉が拡張しており一言で表すのは難しくなっています。では自分の考える「デザイン」とは何なのか——

「デザイン」の歩んできた道を自分で学び、解釈していくことで、裏付けのある自分なりデザイン観を持ちたいと考えたからでした。

これができれば自分にとって盤石の土台となるのは間違いないでしょう。

牛歩の歩みでも学び続けよう

志は高く持ってみたものの、いざ始めてみるとなかなか大変でゆっくりしか進んでいません。1年に1冊出せるかどうかのペースになってしまっています。

資料を集めて、読んで、取材して、考えて、整理して、描く。時間がかかるのもそうですが、資料を買う費用もバカにならないです。正直やればやるだけ赤字です。ただ、学ぶことで発見がありますし楽しいです。続けていく上で何より大事なのは自分が楽しいことです。

その発見の快楽のようなものがマンガに反映されて伝わっていればよいなと思っています。だから読んでくれた方の感想もすごくうれしいです。何かしらが伝わったのだと実感することができるので。

ゆっくりではありますが、ライフワークみたいな感じで粘り強く続けていきます。

2022年11月のコミティアで新刊出せたらいいなあ(難しいかもなあ)

森 慶太

森 慶太

情報デザイナー / IA
群馬県